毎日アイカツ!「第23話 アゲハなミューズ」

(記事作成日時:2021-05-27 22:08:26 +0900 JST)

概要

紫吹蘭は, お気に入りのブランドであるSpicy Agehaの専属モデルを決めるオーディションを控え友人たちと自主トレに励んでいた. 同時にスターライト学園の卒業式も近付いており, 実行委員の神崎美月は卒業式を送る会で行う在校生によるファッションショーのモデルを募る. その募集を聞いた星宮いちごは, 直ぐにモデルとして活躍している蘭を推薦する. 蘭は先に行われるオーディションに, 尊敬する先輩で学園を卒業する新城絵麻もオーディションに出ると知って一層励んだものの, オーディションでは絵麻に完敗してしまう. Spicy Agehaのトップデザイナーである橘杏奈から「私を追いかけちゃ駄目」と伝言された蘭はもっと努力を重ねようと一心に練習に打ち込むも橘の言葉の意味は分からず, 気持ちの整理が付かないままでは卒業生を送るファッションショーには出れないと考えていた. そんな時, 光石織姫学園長から楽しまずに自分の事で一杯になっていることを指摘され, 絵麻が在籍していたクラスに連れられる. そこで絵麻がスタイリストとしてクラスメイトのファッションにも大きな影響を与えていたことを知り, 絵麻がトップデザイナーにも新たなインスピレーションを与える存在だからこそ専属モデルに選ばれたのだと悟る. 橘の伝言の意味を理解した蘭は, 学園長が絵麻から預かっていたSpicy Agehaのカードを受け取る. 蘭はいちご, 霧矢あおい, 有栖川おとめ, 藤堂ユリカの衣装を選んで皆で共にランウェイを歩き, 絵麻にいつか追いつき追い越すことを誓ったのだった.


感想

まずミューズというのは(あおい曰く)神話に登場する女神の総称で, それらが画家に題材としてインスピレーションを与え続けたように転じてデザイナーにインスピレーションを与えるようなモデルのことを指すようです. 私はてっきり後者の意味はアイカツ!世界特有のものだと思っていましたが, 検索したら現実でもそのようなモデルの事をミューズと呼ぶようでした.

これまでにも, アイカツ!の世界ではファッションブランドのデザイナーとアイドルが強く結びついていることが強調されていました. 主要なアイドルにはそれぞれお気に入りのブランドがあり, それぞれがプレミアムレアカードを貰うためにトップデザイナーに会いに行く, という回があります. 蘭は既にプレミアムレアカードを橘から受け取っていたのでそのような回は今までありませんでしたが, 今回は蘭(と橘)がメインの回でした.

蘭は子供の頃にSpicy Agehaのをはじめて着たときに胸の高鳴りを感じて, 「この服が似合う自分になりたい」と思ったといいます. この強烈な憧れは男の子と間違われることもあり, 男の子の服のモデルをしたこともあるという当時の蘭を今のモデルとして活躍する蘭にまで変えた訳ですが, 一方で橘が「私を追いかけちゃ駄目」と, そして学園長が「完璧なだけではデザイナーのミューズになれない」と言う様に, そのブランドの服を完璧に着こなしているだけではデザイナーに既存の印象を与えるだけに終わってしまうということなのですね. モデルの仕事の際(いちごと蘭が一緒にランウェイを歩く蘭の初登場回です)には蘭は皆に「この服を着てみたいと思ってもらう」ことが大切だと語っていましたが, 今回は言わば着てみたいではなくトップデザイナーに「こんな服を着せてみたいと思ってもらう」ということが大切だったのでしょうね. 蘭がSpicy Agehaを着ることで新たな(このブランドの似合う)自分になろうと決意したように, トップデザイナーである橘も自分の服を来てもらうことで新たな自分のファッションデザインの可能性に気付ける, そういう人をモデルに選びたかったのでしょう. 所々で, 蘭が「着こなす」という言葉に囚われすぎている節もありましたね. 蘭はかなり気配りができてしまうので, 集中したいと思う時は自分を過酷に追い詰めることによって気配りする余裕を消し去ってしまおうという考えを持っていそうです.

絵麻はSpicy Agehaだけではなく, 様々なブランドを着こなし, 着る事だけではなくクラスメイトのファッションを選ぶなどスタイリストとしても活動し, 自分で着こなすだけではなく人に着させることも楽しんでいました. 絵麻の影響により, 絵麻の在籍していたクラスは学年の中で特にファッショナブルな生徒が多くなったといいます. このスタイリストとしての目線が, いわば「自分がSpicy Agehaのデザイナーだったらどうしたいか・今のSpicy Agehaに何が足りないか」といったことを考えることを可能にしていたのかもしれません.

しかし本当にアイカツ!のデザイナーとアイドルは距離が近い! 互いが良く刺激し合う存在ですね. 思い返してみるとおとめがHAPPY RAINBOWのトップデザイナーである虹ケ原に会った際も, おとめは時間に非常に厳格な虹ケ原との約束に遅刻して一旦は面と向かってプレミアムレアカードをあげないとまで言われてしまいますが, 紆余曲折あってその彼に「愛は永遠なり」とまで言わしめたのでした(詳しくは第15話の感想を参照ください). ブランドイメージに合っていることももちろん大事ですが, こうしてデザイナーも高めるようなアイドルこそがミューズなのですね. 絵麻はそれに相応しかったからこそ橘のスタンディングオベーションを受けたのでしょう.

蘭は橘や学園長, 絵麻の言葉もあってまた一つ成長しました. いちごたちのコーデを考えてあげるということは普段の蘭ではしなかったことでしょう. 皆で衣装を考えるときに蘭が口を挟んだり, あるいは蘭に助言を求めたりするというシーンは今までにも何度かあったので周囲もモデルとして活躍する蘭を頼りに思っていることが分かります. こうして蘭からも積極的に働きかけることによって他人の想像力を掻き立てることができるようになれば, Spicy Agehaのミューズとなる日も近いのかもしれませんね! (来年にリベンジする回があるのではないかと, 今から楽しみにしています)

個人的に今回の蘭には強い共感を覚えました(毎回強い共感を覚えてませんか?). あることを頑張ろうと思っても, Spicy Agehaに魅せられた蘭が絵麻に敗れたようにそれのみへの憧れだけでは辿り着けない場所があります. 与えられた課題(蘭で言えば服を着こなすこと, 似合う人になること)を完璧にこなすということは, ある意味ではやるべき道が既に定まっていて, その道に沿ったままでは与えられた課題以上のことは為せないということを含んでいる気がします. 蘭が凄いのは, そこで「どうすれば良いか分からない」状態であっても, 決して楽な方法――近道を探して手を休めたり, やる気が出るのを待ったり――という事はせずに, ランウェイを歩くの練習や走り込みを欠かさなかった, むしろその量を増やしたことだと思います. 私たちがある道を外れ, ない道を作る方向に活路を見出すためには, ひたすらにやる, 少しずつでも, やる気がなくても, やるしかないのです. 今回は学園長が蘭を絵麻のクラスに案内することで道の作り方を示唆しました. 学園長がそうせずとも蘭はちょくせつ絵麻に聞きに行ったかもしれませんね, もう蘭はそういうことができる強さを持っていると思います. ここでは学園長が既にある道に導いたのではないという事が重要だと感じます, 手を引いて道を案内してもらうより地図の読み方を教えて貰ったという印象です. よく聞く言葉として努力の方向が間違っているというものがありますが, どのことについても「この長く辛く苦しいことさえ完璧にすれば一人前になれる」という修行はあるもので, シンプルに言えば, ただそれをやれば良いのですね. もちろん言うだけなら簡単です……1.

さて, 24話以降も楽しみです. 次回はオフの回ですね(神回確定)!


その他(箇条書き)

・今回のユリカ, キャラが入れ替わることまさに目まぐるしいですね.

・もしかして蘭ってランウェイのランと掛かっていますか? (大今更)

・Growing for a dreamの入りが好きすぎて何回も見てしまいます!

・久しぶりに中山ユナの声が聞けた気がします.

・オチのためだけにボケさせられるジョニーが可哀想で笑えますね(この終わり方は何ですか?)

・ところで新城絵麻さんは勝手に「新条エマ」だと想像していましたが, SIROBAKOのほうの漢字でした.

・エンドロール関連でもう一つ, 瀬戸麻沙美さんが演じられた「宮本真子」さんとは誰でしょうか? ユナの隣でユナと一緒に驚嘆の声を上げたクラスメイト? ところで瀬戸さんはたった今らいちとしおんを同時に演じられていることを知りました. 言われないと気付きませんね……すごい!


  1. やる気を出そうとか, 頑張ろうと思う時は, 私はけっこうその実, 確実だが長く苦しいことをやらなくて良い理由を探している節があったと痛感しました. このような精神論は, 例えば森博嗣「道なき未知」の序盤にも同様のことが記述されています. ↩︎

アイカツ